無題 P4 主花

憎いとも言わない。悔しいとも思わない。だって俺は男で、新しい命を産み出すことはできなかったから。ただ、アイツが俺以外と仲良くしてるのを見てると、俺の影がどうしようもなくざわめいた。

「なぁ、憎いって言えばいいのに」

ジライヤが俺に囁いてくる。アイツが俺以外を撫でてる。

「悔しいだろ？女じゃないことが」

風はいつだって甘く囁いてくるのだ。
そう、どうしようもなく温く、ざわざわと、紛れもない俺の心が脳に命令する。ぎり、と唇を噛んだ。

「性欲処理用なんだよ。所詮」

本命じゃないんだ。だって、子どもを産めないから。アイツも産めないから。受け入れる部分に行き止まりはなく、辿れば口へと繋がる。精子は腹に溜まる。溜まるだけだ。何も産まれはしない。
なんで男なんだろう。なんで男なんだ。身体は硬い。胸に膨らみはない。子宮はない。
アイツの本命になれないなら、男である理由なんかないのに。

「走って行けばいい。俺を見ろって、卑しく叫べばいい。それがお前の本心だ。俺がよぉく判ってる」

そうさ、本心だ。だから足が勝手に動く。風が脳を動かしている。生ぬるい風が、笑っている。

「とうや」
名前を呼んだら、冬弥が優しく笑った。なに？って、
息を呑む。俺を見ろ、だなんて、言えなかった。風がつまらなそうに去っていく。でも俺は、ただこれだけ、これだけできれば満足だった。
「今日…放課後、開けとけ」
冬弥の目が見れない。きっと笑っているから。どうしようもないやつだ、って。
くすりと冬弥が笑った。いいよ、と笑った。じゃあ放課後に。そう言って女子の手を握り、すれ違い様に耳元で囁かれる。

「今日はどんな風にシようか、陽介」

（性欲処理用？立派な愛だろ、なぁ）

アイツの種は、きっと俺の中に、どうしようもないものを産んでいる。