文サイトとボイスサイト兼用
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 みはじぇい 「血、止まりましたね」 僕の濡れた髪の毛を拭いていたミハエルくんのその言葉に、安心の色が含まれていた。 痛いけどね、なんて言ったら、また九条音弥への恨み言がつらつらと語られるから、何も言わずに足をぶらぶらさせていた。 僕が自殺を偽装したあの日、ファルコンの実に粋な計らいで、九条音弥と初対面を果たした僕は、我ながら見事に理性の枷を外してしまった。僕のことなど知らないで、のうのうと生きていた"おにいちゃん"。嫉ましくて羨ましくて、腹が立って、だから腕を打たれたのも、自分の怒りの熱を鎮めるのには丁度よかった。ちょっと、予想外ではあったけど。 それよりも、その後のミハエルくんの焦りようが見物だった。 川の水に晒されたせいで菌が入ったのだろう、傷の深さ以上の痛みに、僕が少し苦しいと言ったら、必死も必死、しかも泣きそうになりながら、消毒をしてガーゼをして包帯をきつく巻いて、と、甲斐甲斐しく傷の手当てをしてくれた後は、九条音弥への恨み言が始まった。 「第一、思慮が浅すぎます!仮にもテロリストと言ったって人間なんだから、罪に問われるかもしれないのに、何も考えずに打つなんて…!本当にJの兄とは思えないっ…」 歯を軋ませながら怒りに身を任せて話すミハエルくんに、僕は苦笑いをした。 「貴方も貴方ですよ、あんなあからさまな挑発をして!死んだらッ…、本当に死んでしまったら、俺は、俺はどうしたらいいんですかっ…!」 でも、そうやって泣くんだ。僕のために、泣いてくれるんだ。そんな時に、僕は思うのだ。 (ミハエルくんをくれてありがとう、教祖様) 貴方は依るべきものを見つけろと言った。僕はそんなもの、一生見つからないと、心の中で嘲笑っていた。 でもある日、ミハエルくんが言ったのだ。 「差し出がましいかもしれませんが、悲しい時は、悲しいと言うべきです」 いきなりのことに目を丸くした僕に、ミハエルくんは顔面蒼白になって、ひたすら謝り続けていた。 そうだ。今まで僕の心を知ろうとするものなどいなかった。僕の頭しか見えないのだ。顔が綺麗?頭がいい?それは内面じゃないだろう。どうせ偽の言葉に踊らされるぐらいしかできないくせに。 「謝らなくていいよ。…僕、そんな悲しい顔してた?」 「あの、他の奴らに言ったら見間違いだって言われたんですけど…でも、あの演説のとき、」 僕は無表情で聞いている振りをして、内心驚いていた。まさかとは思うが、気づいていた人間がいるなんて思っていなかったからだ。 「貴方が、その…すごく、なんていうか、何かを拒絶していたと、思って…それから、あの、失礼だとは思ったんですが、気になってずっと貴方を見ていたんです。そうしたら、時々すごく、悲しい目をしていて…み、見間違いですよね!すいません!」 頭が真っ白になった。同時に、胸が暖かくなって、心臓が張り裂けそうに高鳴って、目の前の人が、光のように見えた。 気づいていた、気づいていたのだ、このひとは。教祖様しか判らなかった僕の寂しさを、このひとは感じ取ったのだ。 (ああ、くそ、) 脳みそが麻酔をかけられたようにぐらぐらした。愛しい、どうしよう、こんなに愛しい。いや、こんなに愛しかったなんて、というのが正解かもしれない。 「ねぇ」 「はいっ、すいませっ、」 謝る彼の首の後ろに手を回して、唇を奪う。眼鏡が邪魔臭くて外してやると、彼はしどろもどろに目を泳がせていた。 「僕を知ろうとしたの、君が二番目。でも、完全に判ってくれたのは、君が最初」 ごめんね。こんな表現方法しかできなくて。でも、嬉しかったんだ。僕を見てくれたことが、すごく。 「ミハエルくん」 「はっ、はい」 頬を寄せて、耳元に唇を近づけて、わざと吐息をかけてやると、びくりと体が跳ねた。 「一緒に、逃げてくれる?」 「後悔したとか言わないよね」 ドライヤーをかけ終わったミハエルくんに、表にはもちろん出さなかったが、おそるおそる、訊ねてみる。 ミハエルくんはきょとんとしたが、すぐに笑った。 「まさか。ここだけの話ですけど、俺は貴方に付いた時から、貴方のために生きることに決めたんです」 もう死んでますけどね。笑いながら言うミハエルくんが、頼もしく見えたのは言わないでおこう。これは僕の精一杯の我侭だ。 (ああもう、なんでこんなにだいすきにさせるんだろう) こんなに優しいなんて反則だ。普段は僕に頭が上がらないのに、時々すごくかっこいいとことか、自分より僕を考えてくれるとことか、大好きで大好きでたまらない。 「ありがと」 「っえぇ!?」 まさかの礼に驚いたのか、ミハエルくんは素っ頓狂な声を上げて、持っていたドライヤーを落とした。 でも二度は言うまいと、一つしかないベッドに寝転がって、布団にくるまる。 「あーJ!バスローブ一枚じゃ風邪引きますよっ!」 「…暖めてくれないの?」 「っなー!」 上目遣いで言うと真っ赤になった君が、やっぱり愛しくてたまらなくて、どうしよう、僕は君に、こんなに夢中になることしかしてあげられなくて、もういっそ、サンフランシスコにでも行って結婚してあげようか、と思いながら、据え膳を食わんと恐る恐る近づいてくる年上の彼に、心の中でだいすきと呟いた。 PR この記事にコメントする
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