こへたき

なんもかかないのもあれだなーと
どうでもいいこへたきっぽいもの

全てが消えて、自分ひとりの世界になったら、どんな感覚なんだろうか。自分は何を思うのだろうか。寂しさを覚えるのだろうか。ふっ、と、友人たちの声を思い出したりするのだろうか。そして泣くのだろうか。
三途の川で石を積む子のように、疑問を積み重ねる。それは途方もないことだった。途方もないことだったが、どこか現実味を帯びているように思えた。
（そうだろう）
もし自分の信頼できる人間がいなくなったのなら、すべてが消えて自分ひとりの世界になったのも同然じゃないか。そのもしが、どれだけ現実に近しいものか、私は知っている。段々と信頼できる人間が消えていくにつれ、絶望し、堕落していく様を、私は知っている。だから途方もないことを考えていた。いつか、その日がきた時に、幾らかでも絶望が軽くなればいい、と。
これを逃げと罵るのなら、私は甘んじて受けよう。人間は逃げる生き物だ。強いように見せて、結局は逃げることしかできない弱いもの。私は人間だから、いつだって逃げる道を考えている。

（どうしたら、貴方が死なないのかとか）
（どうしたら、貴方をずっと、守れるのかとか）

逃げることを考えてはいけないと、誰も言わなかった。ただ、その人は、したたかに生きろと言った。だから生きるのだ。したたかに逃げて、そう、強く、そして弱いままで、

（それが私の出した答えです、先輩）

そう言えば、きっと笑うのだろうな。苦笑しながら、私は戸を叩いた。