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例に漏れずベタ 

提供:心之音。 恋人的10題。
URL:http://id8.fm-p.jp/8/kokoronooto/




オレはなんて、弱いのだろう。
殺すことを躊躇うぐらいならこの道を歩まなければ良かった。殺すことが怖いなら髪結いを続けていればよかった。そうだ、忍にならなくても、オレは生きていけるのに、親が忍だから何だって言うんだ。
「卑屈だな」
櫛で髪を梳く。兵助くんの髪は、癖はあるけど柔らかくて好きだ。
でも兵助くんは柔らかくなんてない。年上だからって贔屓はしてくれない。オレは兵助くんにとって"後輩"だから。
「決めたのはお前。家系からして素質はあるんだ。だから、今回の実戦も成功したんだろ」
でも、思い出すんだ。

さら、さら。
綺麗に梳いて、
ず、ぷしゃっ、どく、どく。
苦無で、首を、

「タカ丸」
「やだ、怖いよ兵助くん…なんであの人、あんなに、ち、でたの…」

服も顔も櫛も苦無も真っ赤になった。
人は泡を吹いていた。血塗れの、もう、思い出したくないのに脳が、記憶を、

「タカ丸、落ち着け、な」
兵助くんの言葉も耳に入らない。無我夢中で梳く。あの人の髪も少し癖があって、でも柔らかかった。
黒い、真っ黒い、髪。
(さらさら)
でも厳しかった。一目見て、ああ、
(兵助くんに似てたから)
たった一目、数刻。情が沸いた。
梳きながら、あの人が兵助くんに見えた。苦無を持つ手は震えて、(早くしないと、)あの人がオレの震えに感付いてゆっくり振り向く。長い睫毛、(兵助くんだ、)違う違う、これは、駄目だ、オレは(忍なんだっ…!)


「おい!!」
はっと顔を上げたら、兵助くんがオレの手を掴んでいた。恐る恐る自分の手に目をやると、あの血塗れの苦無があった。
「あ、あ、ちが、兵助くんじゃないよね、あのひと、女だった、し」
兵助くんの手を外して、オレは苦無を壁に投げ付ける。
いつの間にか、部屋には血の臭いが充満していた。
あの人の、血が、


「似てたのか」
こくりと頷く。
「馬鹿。卒業したら敵になるかもしれない奴に似てたからって、躊躇うなよ」
そう告げて、兵助くんは俺を抱き締めてくれた。充満してた血の臭いが、兵助くんの匂いに変わる。
オレはたまらなくなって、ちらりと見えた兵助くんの首に口付けた。
「うあっ…」
吸うと、その部分が鬱血して、赤くなる。
次は鎖骨に口付けたけど、兵助くんは拒まない。恋人でもないただの後輩に身体を開くなんて、娼婦みたいに、(そう、あの人は娼婦だったよ)
「なんで」
「は、っ…」
兵助くんが一つ嘲笑する。
それから耳元で囁かれた言葉に、俺は完全に理性を失った。

「お前だから…だよ」





黒髪
あの人は、きっと、二度目の恋だったんだ。
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